はじめに
弊社の開発では ClaudeCode をはじめとした AI エージェントによるPRコードレビューを利用するのが日常になっていますが、商用製品としてのクオリティを担保するためにも必ずマージ前に人間によるレビューも行っています。
しばらくこの運用を続けていると 複数PRに渡り人間が何度も同じ種類の指摘をしている という問題が顕在化してきました。
例えば以下のような指摘が頻繁にあがっています。
- 責務の分離・配置:「この処理は呼び出し元ではなく処理側で自己完結させるべき」「定型コンテンツは別ファイルに切り出すべき」といった、コンポーネント間の役割の境界に関する指摘
- 実装品質:「同一リソースへの重複アクセスを避ける」「同一リソースへの操作を冪等に設計する」「使用したリソースは必ずクリーンアップする」といった実装の堅牢性に関する指摘
- ドキュメントの明確さ:「前提条件や操作対象を明示してほしい」「具体的なコード例をドキュメントに含めてほしい」「新機能を追加したら利用方法も記載してほしい」といった記述スタイルに関する指摘
中には CLAUDE.md に記載のポイントも含まれておりエージェントによるレビュー時も考慮されているはずですが、同じ指摘が繰り返される状況が続いていました。
そこで、過去の人間レビューコメントからレビュー観点を抽出し、蓄積して AI レビューで活用する仕組みを作りました。
この記事では、その仕組みの設計と実装について紹介します。
仕組みの全体像
PRマージ後から次回のレビューまでの流れは以下のとおりです。
PRマージ ↓ 人間レビューコメントから観点を自動抽出 ↓ レビュー観点の追加・更新をするPRを作成、マージ ↓ 以降のPRレビュー時に AI が観点を参照
AI レビューを行うエージェントは観点ファイルを読み込み、人間目線の観点を考慮しながらコードを評価します。
このファイルはリポジトリにコミットして管理するため、チームメンバー全員で観点を共有でき、変更履歴もバージョン管理の中に残ります。
観点ファイルの管理
YAML フォーマット
PRレビューから抽出した観点は yaml ファイルで構造的に管理しています。基本的な構造は以下のとおりです。
version: 1 insights: - id: "insight-{3桁連番}" category: "{カテゴリ}" # design / security / performance / testing / style severity: "{重要度}" # CRITICAL / WARNING / INFO title: "{観点を一言で表すタイトル}" guideline: | {望ましい実装方針} anti_pattern: | {問題のある実装パターンの例} good_pattern: | {望ましい実装パターンの例} scope: - "{適用対象のファイルパス(グロブ形式)}" status: active # active / retired frequency: {指摘された累計回数} last_seen: "{最後に確認された日付 YYYY-MM-DD}" added_from_pr: {最初に抽出・追加されたPR番号} evidence: - pr: {コメントが投稿されたPR番号} comment_url: "{コメントへの URL}" summary: "{コメント内容の要約}"
観点の記述ルール
観点の追加・更新時に意識しているルールをいくつか紹介します。
抽象度を適切に保つ
「PR #42 でこの変数名が悪かった」のような個別事例をそのまま記録するのではなく、再発する可能性のある観点として抽象化しています。
ただし抽象化しすぎると「コードの品質を高める」のような意味のない観点になってしまうため、guideline と anti_pattern / good_pattern で具体的な判断基準を示すようにしています。
重複の扱い
新しいレビューコメントを追加する際は、既存の観点と意味的に類似していないかをまず確認します。
類似する観点があれば新規追加ではなく frequency のカウントアップと evidence への追記に留めます。
表現や用語が異なっていても「根本的に同じ欠陥・懸念を指しているか」を判断の軸にしています。
新しいコメントが既存観点より広い範囲をカバーしている場合は scope の見直しも行います。
不要になった観点の退役
観点が不要になった場合は削除するのではなく status: retired に変更し無効化します。
「なぜこの観点を外したか」の経緯を残すために退役の理由(retired_reason)・退役を決定したPR(retired_from_pr)・退役日(retired_at)もあわせて記録するようにしています。
メンテナンスワークフロー
PRマージ後:観点の抽出と追加
PRマージ後にエージェントに指示を出すと、以下の処理が自動で行われます。
flowchart TD
A[PRマージ] --> B[全コメントを取得]
B --> C[Bot・AI・指摘内容のないコメントを除外]
C --> D{既存 insight と意味照合}
D -- 類似あり active --> E[frequency++ / last_seen 更新 / evidence 追記]
D -- 類似あり retired --> F[スキップ]
D -- 類似なし --> G[新規 insight 草稿を生成]
E --> H[review-insights PRを作成]
G --> H
H --> マージして次回以降のレビューから活用
作成された review-insights PRには変更内容(追加した観点・更新した頻度・元コメントの抜粋)が記載されるため、チームメンバーがレビューして問題なければマージします。
観点の却下:[REJECT] によるリプライ
エージェントが insight に基づくレビューコメントを投稿した際、その観点が「このリポジトリでは意図的に許容している」「過剰な観点だった」と判断した場合は、エージェントのレビューコメントに対して [REJECT] で始まるリプライを返します。
[REJECT] このリポジトリではパフォーマンスより可読性を優先しているため許容している
このリプライを検知すると、対象の insight を退役させるPRが自動で作成されます。
PR本文には退役対象の観点・退役理由・元コメントへの参照が含まれるため、退役の判断をチームで確認した上でマージできます。
今後の展望
この仕組みを導入した現時点は「insight を記録し始めた」フェーズです。以下、さらに発展させていきたいことを紹介します。
頻度データの活用
frequency フィールドはPRをまたいで自動的に積み上がっていくため、運用を続けると「どの観点が最も繰り返されているか」がデータとして見えてきます。
頻度が高い観点はチーム、エージェントの盲点になりやすい領域を示しており、コードベースの構造的な問題を把握するヒントになる可能性があります。
CLAUDE.md / rules への昇格
frequency が積み上がり「これはプロジェクトの不変のルール」と判断できる観点は、insight のまま管理し続けるより CLAUDE.md や rules に昇格させる方が効果的であると期待できます。
insight のままだと「実装→レビューで検知→修正」のフローが必要になりますが、CLAUDE.md / rules に昇格すれば実装段階で防げるようになります。
「insight で蓄積 → 頻度を観察 → 成熟した観点を CLAUDE.md / rules に昇格 → insight を retired」というサイクルを回すことで、AI との協働の品質が継続的に向上していく状態を目指しています。
おわりに
人間レビュアーが繰り返す指摘をエージェントに「教える」という発想で作ったこの仕組みは、運用を続けることで観点ファイルが自然に育っていきます。
どの観点を採用するか・どの観点を退役させるかをPR経由で決めていくプロセス自体が、チームのレビュー基準を言語化していく機会にもなっている点も、導入してみてよかった点の一つです。
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