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AIエージェント活用によるコードレビュー効率化の実現

こんにちは、ENECHANGEでEnergy Marketing Devチームのエンジニアをしている西岡です。

コードレビューは現在のソフトウェア開発において必須のプロセスとなっていますが、多くの工数を必要とするため、その効率化は多くの開発チームが抱える課題です。そこで、AIエージェントを活用してレビュープロセスを改善できないか検討してみました。

コードレビューの重要性

コードレビューは品質向上、知識共有、維持管理性の確保において重要な役割を果たします。

品質向上

バグやセキュリティ上の脆弱性を早期発見し、修正コストを削減できます。また、システム全体の設計品質を向上させ、コードの再利用性や保守性を高めることで技術的負債の蓄積を防げます。

知識共有とチーム成長

経験豊富なエンジニアの技術やノウハウがチーム全体に共有され、コーディングルールや良い習慣が定着します。技術的な議論を通じてコミュニケーション能力も向上し、建設的なアドバイスや柔軟な思考力が身につきます。

維持管理性の確保

適切な変数名や関数名、必要な箇所へのコメント、統一されたコードスタイルにより可読性が向上します。また、技術的負債の管理やリファクタリング計画により、システム全体の健全性を維持できます。

なぜコードレビューの改善が必要だったのか

チームが抱えていた課題

私たちのチームは8人のエンジニアで構成されています。料金計算やスマートメータのデータを活用したサービスなどの複雑なドメインを扱うため、コードレビューは品質を保つ上で欠かせません。

弊社では既にGitHub CopilotやCursor、Claude Codeなどのツールでコード生成の段階でAIの恩恵を受けています。また、GitHubと連携するAIエージェントツールをコードレビューに導入していますが、さらなる活用の余地があると考えました。

そこで、チームが成長するにつれて顕在化してきたいくつかの下記問題を、AIエージェントを活用して解決できないか検討しました。

レビュー待ちの渋滞

プルリクエストの数に対してレビュアーが不足し、レビュー待ちによる開発遅延が発生していました。特に複雑な内容は特定のエンジニアしかレビューできないため、作業が集中して全体的な開発スピードが低下する原因となっていました。

品質のばらつき

忙しい時期には機能面のみの確認に留まり、コーディングルールやセキュリティ問題の見落としが発生していました。SQLインジェクションやパフォーマンス問題など、専門的な知識が必要な部分は特に見逃しやすく、レビュー品質の一貫性が課題となっていました。

レビュアーの負荷集中

特定のメンバーに専門知識が集中し、その人への依存度が高くなっていました。これにより作業のボトルネックが発生し、経験の浅いメンバーがレビュアーとして成長する機会も不足して悪循環を生んでいました。

コンテキストスイッチングのコスト

開発作業とレビューの切り替えにより集中力が分散し、プルリクエストの背景理解や関連情報の調査に多くの時間を要していました。実際のコードチェック以外の作業が予想以上に多く、レビュー全体の効率を下げる要因となっていました。

AIエージェントを活用したレビューの実践方法

ステップ1: 全体像の把握

PRを開いたら、最初にAIエージェントに以下のようなプロンプトで聞きます

このPRについて以下を教えてください

- 何を実現しようとしているか
- 主な変更内容
- 影響を受ける機能やモジュール
- PR概要と実装内容に矛盾がないか
- 特に注意してレビューすべきポイント

このような簡単なプロンプトで、レビューの方針が明確になり、効率的にレビューを進めることができます。

ステップ2: セキュリティとパフォーマンスの網羅的チェック

次に、人間が見落としがちな観点をAIにチェックしてもらいます。

以下の観点でセキュリティとパフォーマンスの問題をチェックしてください

- セキュリティ:SQLインジェクション、XSS、認証・認可、機密情報の漏洩
- パフォーマンス:N+1問題、DBクエリの効率性、メモリ使用量

ステップ3: コードの保守性チェック

最後に、将来のメンテナンスを考えた観点でレビューします。

半年後に別の人がこのコードを修正することを想定して、保守性を評価してください

- 責務の単一性と依存関係の妥当性
- 命名の適切さと可読性
- テストの書きやすさ
- 将来の拡張に対する柔軟性

ステップ4: ビジネスロジックとドメイン観点のチェック

技術的な観点に加えて、ビジネス要求との整合性も確認します:

ビジネス要求との整合性を確認してください

- PRに記載されている概要の要求が正しく実装されているか
- エッジケースへの対応
- ドメイン固有のルールや制約への準拠
- 既存データとの互換性

導入効果と成果

AIエージェントをコードレビューに導入した結果、以下のような成果を得ることができました

レビュー効率の向上

AIエージェントの導入により、レビュアーがチェックすべきポイントが事前に明確になるため、レビューにかかる時間を大幅に短縮できました。また、コードの書き方のルール違反や構文エラーなどの基本的な問題、特にリンターでは検知しづらい問題をAIが事前に検出してくれるため、人間のレビュアーはより本質的な部分に集中できるようになりました。例えば、プログラムの論理的な間違いや、セキュリティ上の脆弱性、データベースアクセスの非効率性、ビジネスルールとの整合性の問題など、人間が見つけるには時間がかかる複雑な問題を効率的に特定できるようになりました。

品質向上

コードの品質面でも大きな改善が見られました。AIエージェントはセキュリティやシステムの処理速度に関わる問題を網羅的にチェックし、人間のレビュアーが見落としやすい問題を補完的に発見してくれます。また、チームメンバーの経験や知識レベルに関係なく、一定の基準でレビューを行うことができるようになり、レビュー品質の安定化を実現できました。

知識共有の促進

AIが指摘した問題をチーム内で議論することで、メンバー全員の学習効果が大きく向上しました。さらに、効果的なレビューの進め方やチェックポイントがプロンプトとしてチーム内に蓄積され、ノウハウの共有が進みました。特に、経験の浅いエンジニアにとっては、AIが提供する詳細な指摘や解説がレビュースキルの向上に大きく貢献しています。

既存コードに引っ張られない客観的な評価

既存のコードやチームの慣習に影響されない客観的な評価ができることです。既存のコードを参考にした実装であっても、AIはゼロベースで問題を指摘し、「今までこう書いていたから」という慣習に左右されません。そのため、レガシーコードの問題点を客観的に評価し、新しい観点からの改善提案を得ることができました。

レビューの往復回数削減

レビューの効率性も大幅に改善しました。コードの意図や背景が理解しづらい箇所を、レビュイーに質問する前にAIに確認することで、不必要なやり取りを削減できました。内容を十分に理解した上で的確なレビューを行うことができ、全体的なレビュープロセスのスピードも向上しました。その結果、レビュイーの説明負荷を軽減して開発作業への集中度を向上させることができました。

導入時の工夫と注意点

AIは「相棒」として使う

最も重要なのは、AIレビューを「最終判断」にしないことです。AIと人間の役割分担を明確にし、それぞれの強みを活かすことが成功の鍵になります。

適切な役割分担

AIエージェントは、セキュリティやパフォーマンス問題の網羅的チェック、コーディングルールの確認、問題パターンの検出を得意としています。一方、人間のレビュアーは、ビジネス要求との整合性確認、設計レベルでの判断、創造的な解決策の提案で力を発揮します。 それぞれの強みを活かした役割分担により、効果的なレビューを実現できます。

避けるべき使い方

AIの判断だけでマージせず、必ず人間の観点での確認も実施しましょう。AIの指摘すべてを盲目的に修正するのではなく、プロジェクトの状況に応じた適切な判断が重要です。また、リファクタリングは既存システムへの影響を考慮し、段階的に進めることが必要です。

まとめ

今回は、AIエージェントを活用したコードレビューの効率化について紹介しました。

AIエージェントは決して人間の代替ではなく、より本質的な議論に集中するための優秀なアシスタントです。適切に活用することで、コードレビューの品質と効率を同時に向上させることができるでしょう。

皆さんのチームでも、AIエージェントを活用したコードレビューの改善を検討してみてはいかがでしょうか。