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AIエージェント時代の組織変革 - 60日間リレーブログ総集編

こんにちは、プロダクト開発統括部長の柏木です。

2025年7月1日から本日9月29日まで、約60日間にわたって実施された「AIエージェント活用リレーブログ」がついに完走しました。この間、様々な職種のメンバーがAIエージェントの利用体験を赤裸々に語ってくれて、組織全体のAI活用が急速に進化していく様子を目の当たりにすることができました。

本記事では、この60日間のリレーブログを通じて見えてきたAIエージェント時代の組織変革の実態と、今後の展望について、私の視点から総括してみたいと思います。

はじめに:60日間のリレーブログが示したもの

多様な職種によるAI活用の実践

この60日間で、実に15種以上の職種×レイヤーのメンバーがAIエージェントの利用体験を共有してくれました。エンジニア、PM、デザイナー、VPoT、新規事業室長、Webディレクター、SRE、QAエンジニア、マネージャー、ディレクターなど、組織のあらゆる層からAI活用の声が上がったのは、まさに「AIネイティブ組織」への変革が本格化している証拠だと思います。

技術的成熟度の急速な向上

記事を振り返ると、初期の頃は「AIに何をさせればいいかわからない」という戸惑いが多く見られましたが、60日間を通じて、AIエージェントの利用パターンが確立され、技術的な成熟度が劇的に向上していく様子がはっきりと見えてきます。

職種別AI活用の変革パターン

エンジニア:開発フローの根本的変革

エンジニアの記事から見えてきたのは、AIエージェントが開発フローを根本的に変えているということです。

従来の開発プロセス

要件定義 → 設計 → 実装 → テスト → レビュー → デプロイ

AIエージェント時代の開発プロセス

要件定義 → AI設計支援 → AI実装支援 → AIテスト生成 → AIレビュー支援 → 自動デプロイ

特に印象的だったのは、「Cursorを使ったAIエージェント開発体験記」で語られた「Mermaidフローチャートから始めて段階的に実装する手法」です。AIエージェントの利用において、段階的なアプローチが重要だということがよく分かります。

また、「Claude Code と一緒に Go アプリの CPU 負荷を削減した話」では、CPU使用率を26.07%から1.67%まで削減(94%削減)という劇的な成果を、AIエージェントの利用で実現しています。AIエージェントが「答えを出すツール」ではなく「一緒に考えるパートナー」として機能している好例だと思います。

AIエージェントでデータベースクエリ最適化を実現した体験談」では、N+1問題の検出からウィンドウ関数活用まで、SQL最適化の実践例が詳細に紹介されています。3回のクエリ実行を1回に集約し、開発フローに自然に統合した使い方が参考になります。

Claude Code GitHub Actionsを用いてアラートの初期分析効率化を目指す」では、Sentryアラートの自動分析をGitHub Actionsで実現し、エラー解析の効率化を図っています。これにより、確認者が個別にスラッシュコマンドを実行する必要がなくなり、チーム全体での情報共有が改善されました。

PM:非エンジニアでも技術的アウトプットが可能に

PMの記事から見えてきたのは、AIエージェントにより非エンジニアでも技術的なアウトプットが可能になったということです。

PMのAIエージェント活用による超効率的なプロジェクト管理への挑戦」では、RemoteConfigの設定項目を一瞬で把握し、PDFからMarkdownへの変換も瞬時に完了させるなど、PM業務の効率化を実現しています。「AIエージェントの本質はInput → Process → Output」という理解は、AI活用の本質を突いた洞察だと思います。

非エンジニアがAI支援コードエディタを使ってデータを自動統合してみた」では、手動で数時間かかっていたデータ統合作業を数分で完了させることに成功しています。AIエージェントが技術的な壁を下げる効果を明確に実感できる事例ですね。

ClaudeCodeを使ってパワポ資料をMarkdown(Marp)置き換えてブラッシュアップしてみた」では、PowerPointからMarpへの移行により、プレゼン資料の品質向上とバージョン管理の改善を実現しています。39枚から33枚に絞り込み、視覚的改善と内容の整理を両立させた成果から、AIエージェントの利用の可能性がよく分かります。

デザイナー:デザインと実装の境界の曖昧化

デザイナーの記事から見えてきたのは、デザインと実装の境界が曖昧になっているということです。

エクスペリエンス部長の挑戦!Cursorで実現した業務アプリPoC開発」では、エクスペリエンス部長として、プログラミング経験が殆どない状態から1週間で実用的なPoCを構築した驚異的な事例が紹介されています。GAS + Google Sheets + React構成で業務アプリを開発し、手動調整時間を90%削減する成果を実現しています。

「Cursor x Figma」Figmaデザインから本格的なWebサイトへの実装」では、Figmaデザインから直接Webサイトを実装するプロセスが確立されています。デザイナーが「ただ見た目を作る」のではなく、「コード化を前提としたデータを作る」という意識転換が起きているようですね。

QAエンジニア:テスト学習と自動化の効率化

QAエンジニアの記事から見えてきたのは、テスト学習と自動化の効率化が劇的に進んでいるということです。

AIペアプログラミングで自動テストを習得:Vibe Codingをテスト学習に応用してみた」では、「Vibe Test Coding」という手法で、AIにテスト対象アプリを作ってもらい、対話しながらテスト技術を学習する画期的なアプローチが紹介されています。シングルトンパターンやデコレータなどの概念を文脈に沿って理解し、AAA/BDDパターンの比較検討まで実体験できる学習方法は、従来の学習効率を大幅に向上させています。

QAエンジニアがAIでテストケース作成を自動化するにはSOWを書かせてディレクションした話」では、AIに「SOWを作って」と指示することで、迷走を防ぎ、明確なゴールと道筋を提示する手法が紹介されています。テストデータ生成ツールの更新において、マイルストーンを100%達成し、AIとの協業が劇的に改善した事例から、AI活用におけるディレクションの重要性がよく分かります。

テストコード作成の悩みをAIが解決!Cursorで半減した試行錯誤の時間」では、CursorとPlaywright MCPの組み合わせにより、テストコードの作成が劇的にスムーズになった事例が紹介されています。AIがブラウザの現在の状態を把握しながらテストコードを生成し、複数存在する要素でも確実にクリックできる保守性の高いテストコードを短時間で作成できるようになりました。

VPoT:技術戦略と組織変革の両立

VPoTの記事から見えてきたのは、技術戦略と組織変革を両立させているということです。

AI時代だからこそ「正しい」判断を重ねよう」では、AIの能力が高まっている中でも「判断」と「責任」は人間の役目であることを強調しています。AIエージェント時代における人間の役割の再定義は本当に重要だと感じます。

その他の職種:多様なAI活用の実践

Devinが最低限ワークするようになるまでにやったこと - 導入の苦労と改善の軌跡」では、Devin導入時の課題から改善まで詳細に解説されています。見当違い実装やCI失敗頻発から、Machine設定・クラス細分化・Cursor連携で効率化を実現した過程が参考になります。

AIエージェントで"情報自動収集"に挑戦してみた(そしてしくじった話)」では、失敗談も含めて正直に語られた内容が印象的です。完璧を求めず80%の自動化から始める「ハイブリッドアプローチ」の現実的アドバイスが参考になります。

SlackからGoogleサイト公開まで!AIエージェントで実現する自動化ワークフロー構築プロジェクト」では、Notion AI → Cursor → Googleサイトという連携パターンにより、従来エンジニアに依存していたWebページ作成を非エンジニアでも効率的に行えるようになっています。相談内容を段階的にインフォグラフィックス化し、社内共有まで一気通貫で実現しています。

新規事業におけるAIエージェント活用の可能性」では、「AIはコスト削減ツールではなく新しい価値創造の土台」という視点が興味深く、議事録作成の変化から働き方のパラダイムシフトを実感として語った内容が印象的です。

技術的成果と学び

AIエージェントの利用パターンの確立

60日間を通じて、AIエージェントの利用パターンが確立されてきました。

1. 段階的アプローチ

  • 大きなタスクを小さな単位に分割
  • 各段階でAIの出力を検証・調整
  • 人間の判断とAIの実行の適切な役割分担

2. プロンプトエンジニアリングの重要性

  • 具体的で明確な指示の重要性
  • コンテキストの適切な提供
  • 期待する出力形式の明示

3. 複数AIエージェントの連携

  • Notion AI → Cursor → Googleサイト
  • Claude Code → Devin → GitHub Actions
  • 各AIエージェントの得意分野を活かした連携

4. 失敗から学ぶ文化の確立

  • 完璧を求めず80%の自動化から始める「ハイブリッドアプローチ」
  • 失敗談も含めて正直に語る文化
  • 継続的な改善と学習のサイクル

5. SOW(作業明細書)によるAIディレクション

  • AIに「SOWを作って」と指示することで迷走を防止
  • 明確なゴールと道筋の提示
  • マイルストーン100%達成の実現

開発効率の劇的向上

記事から見えてきた開発効率の向上は驚異的です。

具体的な数値例

  • データ統合作業:数時間 → 数分(95%以上短縮)
  • プレゼン資料作成:1週間 → 2-3日(60%以上短縮)
  • コードフォーマット実行時間:7.7秒 → 0.4秒(94.8%短縮)
  • CPU使用率:26.07% → 1.67%(94%削減)
  • 手動調整時間:90%削減(業務アプリ開発)
  • 処理時間:95分 → 9.3分(90%以上短縮、マテリアライズドビュー実装)
  • ブログ感想生成:51件を約20分で完了(Strands Agents活用)
  • テストコード作成時間:半減(Cursor + Playwright MCP活用)
  • テスト学習効率:大幅向上(Vibe Test Coding活用)

これらの数値から、AIエージェントが単なる効率化ツールではなく、業務の質そのものを変革する力を持っていることがよく分かります。

品質向上の実現

効率化だけでなく、品質の向上も実現されています。

コード品質の向上

  • 自動テスト生成によるテストカバレッジの向上
  • AIによるコードレビュー支援
  • セキュリティチェックの自動化
  • N+1問題の自動検出と解決
  • パフォーマンス最適化の提案

ドキュメント品質の向上

  • 設計書の自動生成
  • 仕様書の構造化
  • プレゼン資料の視覚的改善
  • プロンプト品質の客観的評価システム(cclog_output)

アクセシビリティの向上

  • APGガイドラインに基づく構造的改善提案
  • コントラスト比の自動計算
  • ユーザビリティの向上

テスト品質の向上

  • 保守性の高いテストコードの自動生成
  • AAA/BDDパターンの実践的学習
  • テストカバレッジの可視化と改善

組織変革への影響

職種間の壁の撤廃

AIエージェントの活用により、職種間の壁が撤廃されつつあります。

従来の組織構造

エンジニア ←→ PM ←→ デザイナー
    ↓         ↓        ↓
  技術実装   要件定義   デザイン

AIエージェント時代の組織構造

全職種 ←→ AIエージェント ←→ 全職種
    ↓           ↓           ↓
  判断・責任   実行・支援   判断・責任

弊社は現状職能別組織に近い形をとっていますが、今後、開発における職種の壁がなくなっていくと機能別組織からプロジェクト型組織へと変革していく可能性も十分あると感じます。

学習と成長の加速

AIエージェントの利用により、学習と成長が加速しています。

従来の学習パターン

経験 → 知識蓄積 → スキル向上 → 実践応用

AIエージェント時代の学習パターン

AI協働 → 即座の実践 → 知識獲得 → スキル向上

学習のサイクルが大幅に短縮されることで、知識やスキルの習得スピードが飛躍的に向上し、現場での即時実践や新しい技術へのキャッチアップが容易になります。これにより、個人やチームがより早く成長し、変化の激しい環境にも柔軟に対応できるようになることが期待できます。

創造性の解放

AIエージェントが定型作業を担うことで、人間はより創造的な活動に集中できるようになっています。

従来の業務配分

人間:定型作業 + 創造的作業

AIエージェント時代の業務配分

人間:創造的作業 + 判断・責任
AI:定型作業 + 実行支援

この結果、それぞれのメンバーがより創造的な業務や新しい価値創出に集中できるようになり、イノベーションの加速や競争力の強化が期待できます。

今後の展望:AI活用予算倍増の決定

経営執行会議での決定

AI活用の成果を受けて、経営執行会議においてAI活用のための予算を倍増することが決定されました。 この決定は、AIエージェントの積極的な活用によって、開発効率や業務品質の向上、コスト削減など、組織全体の競争力が大きく高まっていることを経営陣が具体的な成果として確認し、今後さらにAI活用を推進することが企業成長に不可欠であると判断した結果です。

予算倍増の背景

1. 定量的な成果の確認

  • 開発効率の劇的向上
  • 品質の向上
  • コスト削減の実現

2. 定性的な価値の認識

  • 職種間の壁の撤廃
  • 学習と成長の加速
  • 創造性の解放

3. 競争優位性の確立

  • AIネイティブ組織への変革
  • 技術的優位性の確保
  • 人材の競争力向上

今後の投資重点領域

1. AIエージェント基盤の強化

  • より高度なAIエージェントの導入
  • カスタムAIエージェントの開発
  • AIエージェント間の連携強化

2. 人材育成の加速

  • AIエージェント活用スキルの向上
  • プロンプトエンジニアリングの教育
  • 創造的思考力の育成

3. 組織文化の変革

  • AIネイティブ文化の浸透
  • 失敗を恐れない挑戦文化
  • 継続的学習文化の確立

課題と対策

現在の課題

1. スキルギャップの存在

  • AIエージェント活用スキルの個人差
  • プロンプトエンジニアリングの習得度のばらつき
  • 創造的思考力の育成の必要性

2. セキュリティとガバナンス

  • AIエージェントによる情報漏洩リスク
  • 適切な権限管理の必要性
  • 倫理的判断の重要性

3. 組織文化の変革

  • 従来の働き方からの脱却
  • 失敗を恐れない文化の醸成
  • 継続的学習の習慣化

対策と取り組み

1. スキルギャップの解消

  • 全社的なAIエージェント活用教育の実施
  • プロンプトエンジニアリングの標準化
  • 創造的思考力の育成プログラム

2. セキュリティとガバナンスの強化

  • AIエージェント利用ガイドラインの策定
  • 権限管理システムの構築
  • 倫理判断フレームワークの確立

3. 組織文化の変革促進

  • リーダーシップによる変革推進
  • 成功事例の共有と横展開
  • 継続的改善の仕組み構築

まとめ:AIエージェント時代の組織変革

60日間で実現した変革

この60日間のリレーブログを通じて、AIエージェント活用が私たちの組織にどのような影響を与えたのか、現場のリアルな変化や課題を改めて実感することができました。

技術面での変化

  • 一部の開発フローにAIエージェントが自然に組み込まれるようになった
  • 職種ごとにAI活用の工夫やノウハウが少しずつ蓄積されてきた
  • 日々の業務の中で創造的な取り組みが増えつつある

組織面での変化

  • プロジェクトごとにAI活用の事例が生まれ、横展開の動きが出てきた
  • 学び合いの機会が増え、成長を実感する声が聞かれるようになった
  • 競争力向上に向けた小さな取り組みが始まっている

文化面での変化

  • AIを前提とした働き方への意識が少しずつ浸透し始めている
  • 失敗を共有し合い、挑戦を後押しする雰囲気が生まれつつある
  • 継続的な学習や改善を意識するメンバーが増えてきた

まだ道半ばではありますが、こうした小さな変化の積み重ねが、今後の組織の成長につながると感じています。

最後に

この60日間のリレーブログは、単に60日間記事を投稿すること自体が目的ではありませんでした。60本の記事はあくまで表層的な成果であり、真の価値は、メンバー一人ひとりのAI活用スキルの向上と意識の変革にあります。私は、この取り組みこそが組織の未来を変える原動力になっていると実感しています。

AIエージェントは、私たちの働き方を変え、組織を変え、社会を変える力を持っています。しかし、その力を最大限に発揮するためには、人間の判断と責任が不可欠だと感じます。

私たちは、AIエージェント時代の組織変革をリードし、より良い未来を創造していく責任があります。この60日間の経験を糧に、今後も挑戦を続けていきたいと思います。